第17章 凛
凛「……好きだからだ」
その言葉を聞いた瞬間、は何かが胸の奥で崩れていくのを感じた。
自分のことを、こんなふうに言ってくれる人がいる。
淡々としていて、何ひとつ飾られていないのに、
その一言が、どんな優しい言葉よりもまっすぐに響いてくる。
「……凛くん……」
声を震わせながら呼ぶと、凛はゆっくりとを見た。
迷いのない目。
何も求めない、ただ“そこにいる”と伝えるようなまなざし。
は、静かにその手を伸ばした。
そっと、凛の頬に触れる。
その体温に、自分の鼓動が重なるような気がして、胸がいっぱいになる。
「……私も……好き、だよ」
その一言を口にした瞬間、また涙が溢れてきた。
今度の涙は、悲しみでも後悔でもない。
長い間、自分を責め続けていた心が、ようやく許されたような——そんな涙だった。
の手がそっと凛の頬に触れ、震えるような声で告げられたその言葉。
凛のまなざしが、ほんのわずかだけ揺れる。
けれどその揺れはすぐに静かに溶けて、
彼はの手にそっと自分の指を重ねると、少しだけ息を吐いた。
そして、ごく自然な動きで距離を詰め——
凛「……嫌なら、拒めよ」
ぽつりとそう言った。
目の前の相手を見据えたまま、静かな声で。
許可を求めるでもなく、押しつけるでもなく、ただ“選ばせる”言葉。
それが、凛なりのやさしさだった。
は何も言わずに、小さく首を横に振った。
その瞬間、凛の瞳が少しだけ緩む。
凛はそっと頬に触れ、
そして——そのまま、唇を重ねた。
何も飾らず、ただ真っ直ぐに。
冷たいようで、でも底に熱を宿した、凛という人間そのもののキスだった。
その深さに、は自然と目を閉じ、
すべてを受け入れたように、静かにその温度を感じ続けた。
唇が離れたあと、凛は言った。
凛「……もう、自分のこと下げんなよ」
ただ、それだけ。
けれど、どんな優しい言葉よりも重く、真剣で、あたたかかった。
は涙を拭って、小さく笑った。
この人となら、大丈夫。
きっと、もうひとりじゃない。
ーfinー