第6章 やぶれない檻
「……ほんとは、誰にも言うつもりなかったんだけど」
ぽつりと、言葉がこぼれる。
潔は口を挟まない。
ただ、そこにいるという意志だけを静かに示しながら、ベッド脇の椅子に腰を下ろす。
「……昔ね、すごく優しかった人がいたの。困ってたらすぐ気づいてくれて、手を握ってくれて……守ってくれて。……そういうのって、信じたくなるじゃない?」
潔「……うん」
潔は、うなずく。
「でも、その優しさが……いつからか、怖くなったの。すごく静かで、やわらかくて、でも、どこにも逃げられない感じがして」
声が少しずつ震えていく。
「嫌いになれなかった。だって、優しかったから。私を大切にしてくれてたって……思ってたから。でも、違うの。あれは……優しさなんかじゃなかったのに」
喉の奥が詰まりそうになる。けれど、潔は何も言わず、ただその言葉を受け止め続ける。
「優しさって、怖いよ。逃げ道、なくなるから。好きって言われて、“お前もそうだよね”って言われて……私、何も知らなかったのに、うんって言うしかなかった」
絞るような声。けれど、そこにはほんのわずかな覚悟も滲んでいた。
「──ごめん。変なこと、言ったよね」
がうつむくと、潔はゆっくりと、けれどしっかりとした声で言った。
潔「……変じゃないよ。全部、ちゃんと聞いてる」
その言葉は、真っすぐだった。
潔「さんが……それでも誰かを信じて話してみようって思ったのなら、俺は、ちゃんとそれに応えたいって思ってる」
「……潔くん……」
潔「無理に話さなくていい。でも、さんが“怖かった”って思ったこと……それだけで、もう十分だよ」
その声は、まるで闇に射す灯火のように、優しかった。
そしては──
ようやく、ほんの少しだけ息を吐くことができた。