第6章 やぶれない檻
──その言葉を聞いたときだった。
遠い記憶が、ふと脳裏をよぎる。
優人は、昔からこんなふうではなかった。
初めて出会ったあの日──
彼は屈託のない笑顔でを見た。
優「可愛い…。君が困ったときは、僕が絶対守るからね」
真っ直ぐな瞳でそう言ってくれたのを、は今でも覚えている。
眠れない夜には手を握ってくれた。
熱を出したときも、転んで血を流したときも、母親よりも早く駆けつけてくれた。
まるで、本当の兄のように。
でも──優人が誰にでも優しく、しかも目を引く存在だったせいで、は周りの女子に疎まれるようになった。
「アイツの妹ってことで調子に乗ってる」
「優人くんと仲良くしてるだけで目立とうとしてるんでしょ?」
そんな悪意に晒されて、が孤立していたとき。
優人は何も言わずにその中心人物たちに歩み寄り、笑顔でこう言ったのだ。
優「僕に好かれたいなら……妹に優しくして?そしたら可能性、ゼロじゃないかもよ」
その一言で、すべてが変わった。
優人の“力”で守られたことに、安心したのも事実だった。
けれど──
両親がいなくなってから。
家の中に残されたのは、と優人だけになったあの頃から──
何かが、変わり始めた。
優人は、の一挙一動に過敏になり、誰と話しても不機嫌になるようになった。
優「僕のこと、好きでしょ?」
優「他の人と話すと、悲しいんだけどな」
──兄としての心配とは、明らかに違う。
“妹”として大切にしていたはずの距離が、少しずつ、狂いはじめた。
そして──
あの夜。
が中学二年生のとき、2人は初めて体を重ねた。
優人は、穏やかな声でこう言った。
優「……好きな人とするのが当たり前なんだよ。だって、僕のこと……好きでしょ?だったら、問題ないよ。ね?」
当時のは、何も知らなかった。
好きって、きっとそういうことなのだと、信じてしまった。
──そして、その日から、全ては始まった。
懐かしい記憶が、脳裏にちらつく。
声も、笑顔も、あの頃のままなのに──