第6章 やぶれない檻
時間は、誰の心にも寄り添わず、ただ淡々と過ぎていく。
の身体は、その残酷な規則に抗うこともできず、日に日に疲弊していった。
優人が来てから、夜は眠れなかった。
優人の声が、気配が、まぶたの裏にこびりついて、数時間も経たぬうちに目が覚める。
鏡の中、目の下のクマは濃く、顔色は悪くなる一方だった。
潔「さん…大丈夫?」
共有スペースにいた潔が、心配そうに顔を覗き込む。
國「顔色、ひどいぞ」
國神も眉をひそめる。
千「ほら、ちゃんと座って。水、持ってくるから」
千切がすばやく動き、凪は相変わらず淡々としつつも、さりげなく肩を支えてくれていた。
──やさしい。
みんな、ちゃんと気づいてくれてる。
でも、言えない。
「優人が怖い」なんて、証拠もないことを。
「……ごめんね、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから……」
いつものように笑ってみせたその直後だった。
世界が、音を立てて傾いた。
足元がふらつき、視界がぼやける。誰かが「!?」と叫んだ。
その声が届くよりも早く、は意識を手放してしまった。
そしてが倒れてしまう前に、誰かがサッと抱き止めた。
優「……まずいですね、完全に脱水と過労です」
冷静な声だった。
優「僕が医務室まで運びます。大丈夫、任せてください」
そう言って、優人がを軽々と抱え上げる。
そのまま周囲の視線を集めつつ、落ち着いた足取りで廊下を進んでいく。
潔「すげえ……普通にかっこよくね……?」
千「プロのトレーナーって、やっぱ違うんだな」
國神も何も言わなかったが、その表情は「感謝」と「安心」に染まっていた。
──だが。
?「……医務室、そっちじゃねーぞ」
誰かが呟くように言った。
振り返った先にいたのは凛だった。
壁に寄りかかりながら、鋭く優人の背中を見つめていた。
優人はふと歩みを止めるが、すぐに微笑んで言う。
優「先に少し水分を摂らせたくて。僕の部屋に経口補水液、置いてあるんですよ」
その声はあくまで優しかった。
だが凛の目は、少しも笑っていなかった。