第6章 やぶれない檻
はあとずさった。
しかし背中が冷たい扉に押し付けられる。
もうこれ以上、下がれない。
「……っ、どいて……」
優「どうして? ここ、君の部屋でしょ? 僕はもうなんでも知っているよ。君がどの時間帯どんなところにいるか。だから今日もここでこうして待ってたんだ。…ねぇ、入れてよ」
言葉は柔らかい。
でもその声音は、ひとつも優しくなんかない。
「…お願い、近寄らないで…」
優「怖いの? …それは少し、悲しいな。みんなの前では知らない人のフリされるし…僕が温厚な人でよかったね。きっと他の人だったら怒っていたよ」
優人は探るような視線をに向けた。
優「ねぇ、。…逃げられるとでも、思った…?」
「っ…」
震える声を押し殺して、ただ耐えるように唇を噛む。
優人の手がゆっくりと伸びる。の頬へと、触れる寸前で――
優「……可哀想に。泣きそうな顔して」
「やめてっ!」
その瞬間、手が払われた。
反射的だった。意識する前に体が動いていた。
優人の手が軽く弾かれ、空気を切る。
優「…」
沈黙。
笑顔が、少しだけ崩れた。
だが、ほんの一瞬だった。
また“優しい”声が戻る。
優「そんな表情で、一体何人の男を絆してきたの…?」
「…なに、それ…」
優「分かってないの?だとしたら罪な女の子だよ、君は。君のその怯える表情が……どれだけ男を唆らせると思う?」
言葉が、氷のように心臓を刺す。
優「……でも、大丈夫。僕は全部、許すよ。――逃げたことも、他の男をたぶらかしたことも。」
微笑みの仮面を貼り直し、優人はそっと身を引いた。
優「疲れてるんだよね?じゃあ、今日はゆっくり休んで」
優「次は部屋に入れてね」
耳元でそう呟き、去っていく。
音もなく、静かに。
だがの心臓は、ずっと鳴り止まなかった。
手のひらが汗で濡れている。
扉に背を預けたまま、は崩れるようにその場に座り込んだ。
──優人は、変わってなんかいなかった。
──今もあの頃と同じ目で、自分を見ていた。
そして、気づいてしまった。
彼の狙いは、ただ「追ってきた」だけじゃない。
この場所で――また支配しようとしているんだと。