第6章 やぶれない檻
ある日の夕方、共有スペースに皆が集まっていた。
凪が壁にもたれかかりながら、じっとを見ていた。
凪「……顔色、悪い」
「え……あ、大丈夫。ちょっと疲れただけだから」
凪「ふーん。でもオレが見て“疲れてる”って思うなら、相当だよ」
そのまま凪は、ソファに深く沈みながらも、視線を逸らさない。
そこに國神と潔がやってくる。
潔「さん、最近ずっと様子がおかしいっていうか……なにかあった?」
國「顔も、言葉も……いつもと違う。もし言いづらいことがあるなら、言えよ。俺たちだけでも聞くから」
は息を呑み、手元を見つめる。
この数日、ずっと胸の奥で暴れていた言葉が、喉元までせり上がってくる。
「……あの……」
ぽつりと漏れたその声に、凪が少しだけ体を起こす。潔も國神も静かに、続きを待つ。
「……きっと、信じてもらえないかもしれないけど……でも……」
言いかけたその瞬間。
優「――お疲れさまです、みなさん」
静かに、だが確実に響く低い声が、その場の空気を断ち切った。
優人がタオルを抱えたまま、微笑んで近づいてくる。
優「さんも、だいぶ疲れているようですね。少し肩、ほぐしましょうか?」
(……どうして、今……)
咄嗟に視線を逸らす。
「い、いえ……大丈夫です……。ありがとうございます」
は思わず共有スペースを出た。
そう言うのが精一杯だった。
潔も國神も、凪も――その急な空気の変化に、何かを感じたように黙ったまま優人の言葉を受け止めていた。
優人は、何もなかったようににこやかに頭を下げると、そのまま別の方向へと去っていった。
──だが、の肩が、ずっとわずかに震えていたことを、三人は見逃さなかった。