第2章 新マネ登場
國神side
“……これからよろしく”
その言葉は、自分でも意外だった。
口にしてから、胸の奥がほんのわずかにざわついた。
國(……なんでそんなこと言ったんだ、俺)
たった数十分前までは、「サッカーさえできればそれでいい」と割り切っていたはずだった。
だけど――
洗濯室という、選手からすれば“試合と関係のない”場所で、彼女はたった一人で、黙々と、真剣に作業に取り組んでいた。
誰に見せるでもなく、ただ“役に立ちたい”“覚えたい”という気持ちが、自然と伝わってくる。
ぎこちない笑顔の奥に、何かを押し込めているような静けささえ感じさせるその姿が、國神の心にじんわりと残り始めていた。
“頑張ります”
の声は小さくても、しっかりと芯のある響きを持っていた。
國神はその返事に、ほんの少しだけ目を細める。
國(……変な感じだ。なんだろう、この感じ)
その時だった。
潔「おーい、國神!いたのか」
扉が開き、潔がバスタオルを抱えて入ってきた。
潔「ちょっと洗濯室、使わせてもらうな。あ、もしかして……新しいマネージャー?」
彼のいつもの調子だ。
明るくて、誰にでも壁を作らない。
は思わずぴしっと姿勢を正して、丁寧に頭を下げた。
「天羽です。よろしくお願いします」
潔「こちらこそ。よろしく、さん」
にこっと笑って、潔は國神の隣に立つと、洗濯カゴをそっと置いた。
國神はそのやりとりを黙って見ていた。
けれど、胸の奥に小さな棘のようなものが引っかかるのを感じた。
潔は悪くない。むしろ、にとって話しやすいタイプだろう。
場の空気も柔らかくなるし、きっとすぐに馴染める。
――それなのに。
國(……もっと、話したかった)
ふいに湧いた感情が、思った以上に自分の中で大きかったことに戸惑う。
國(……俺、何考えてんだ)
自嘲のように息を吐きながら、國神は目を伏せてタオルを洗濯機に入れた。
背後では、潔の軽やかな声と、それに応えるの丁寧な返事が交わされている。
國神は何も言わず、静かに操作ボタンを押した。
洗濯機が静かに動き出す音だけが、彼の沈黙を包み込んでいた。