第5章 忘れられない人
――数日後の昼下がり。トレーニング室の一角。
アンリが皆を集めると、明るい笑みを浮かべながら口を開いた。
そしてもこの少し前にアンリに新しいスタッフを紹介するからと言われ、ここへ来ていた。
ア「今日はちょっと紹介したい人がいて呼びました。今週からこの施設で、トレーナーとして入ってくれた“黒田 優人さん”です」
その言葉に、数人が自然と視線を向ける。
ア「ストレッチやケア、トレーニングの補助もしてもらうから、遠慮せず頼ってね」
優「初めまして。黒田と申します。皆さんの身体がベストな状態を保てるよう、できる限り力になりたいと思っています。よろしくお願いします」
柔らかく丁寧な物腰に、どこか知性を感じさせる声音。
社会経験を積んでいるような落ち着いた雰囲気に、思わず背筋を正す者もいた。
──そのとき、彼らの胸に浮かんだ印象。
潔(礼儀正しいし、話もちゃんとしてる……悪い人じゃなさそうだな)
千(こういう“大人っぽい人”って、案外頼れるタイプだったりするんだよな)
凪(ふーん。トレーナーみたいな感じか。まぁなんでもいいけど)
國(……昨夜すれ違ったやつと似てる…?いやでも……まさか…な)
凛(今あいつの反応がおかしくなかったか…?…だが今のところ怪しむような要素が見当たらないな)
空気を緩めるように、アンリが軽く手を叩く。
ア「じゃあ黒田さん、今日のメニューを見学がてら、みんなと軽く一緒に動いてみてください」
優「ありがとうございます。無理せず、適度に関わらせていただきますね」
side
覚悟していた。
数日前から、この日が来るのではないかと。
夢だと、気のせいだと思いたかった。
しかし優人は今みんなの前で自己紹介している。
(……終わった…)
冷たい汗が、背中を伝う。視界がじわりと滲んだ。
声を出さないように、奥歯を噛んで耐えた。
の頭の中には"絶望"の2文字が浮かんだ。