第5章 忘れられない人
こうして軽いストレッチと体の可動域チェックが始まった。
優人はひとりひとりに目を配りながら、的確に声をかけていく。
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優「千切さんは下半身の可動域が非常に広いですね。無理をして痛めないように、よかったらサポートさせてください」
千「……あ、ありがとう。お願いします」
優「潔さんは、バランス感覚が非常にいい。でも、瞬発系の反復で疲労が蓄積しやすいタイプだと思います。もし違和感があれば、すぐ教えてください」
潔「わかりました。お願いします」
凪「オレ、あんまこういうの得意じゃないんだけど」
優「無理に変える必要はありません。ただ、軽いストレッチだけでも継続できれば、怪我のリスクは減りますよ」
凪「……ふーん」
國「“強い身体は、弱い部分を知ることから始まる”……黒田さんも、そう考えるタイプですか?」
優「……その言葉、恩師がよく口にしていました。……まさか、同じ言葉を聞けるとは」
國「そうですか」
國(やっぱりそうか…?昨日のやつか…?見間違いにしても背格好が似すぎてる気が…)
そして凛の前に立った優人は、一瞬だけ言葉を選んでから口を開いた。
優「凛さんは肩甲骨の可動域にやや固さがあります。改善できれば、フォームの精度も上がると思います」
凛「……遠慮する。触られるのは、好きじゃない」
優「……承知しました。無理にとは言いませんので、必要があれば声をかけてください」
凛は優人の背が離れていくのを黙って見つめながら、静かに思う。
凛(……全部、的確すぎる。あまりにも“完璧”だ。それに……あいつのあの目、怯えてた。あんな顔、今まで見たことがない)
凛はの反応を見て、そんなことを思った。