第5章 忘れられない人
潔「……あれ?」
自主トレを終えた潔が、ロッカーの前で足を止める。
いつもなら自分で丁寧に畳んで入れているジャージが、どこか不自然にずれていた。
潔「……なんで、ここ開いてんだ?」
ほんの数センチ。だが潔はすぐに異変に気づく。
手を伸ばし、中を確認すると──タオルのたたみ方が乱れている。
水のボトルも位置が微妙にずれていた。
潔「誰か……触ったか?」
すぐ隣で、千切もロッカーを開けていた。
千「潔、お前のとこも変だったか。……俺のとこも、ユニフォーム裏返ってた。たたみ直したのに」
潔「盗られてはないっぽいけど……なんか、気味悪くないか?」
そこへ凪がのそりと現れ、あくび混じりに口を開く。
凪「ん~?なに、なんかあったの?」
潔「ロッカーがいじられてたかもしれない」
凪「ふーん。……オレのも見てみよ」
凪がロッカーを開けると、ほぼ無造作に突っ込まれた私物がそのままだった。
凪「うん、オレのは大丈夫。てか、いじられても分かんないしね、これ」
苦笑が漏れる。
潔は眉をひそめつつ、千切と目を合わせる。
千「凪のとこが平気なら、狙われたのがたまたま……ってこと?」
潔「だとしても、何が目的なんだよ。気持ちわるいな……」
――そこへ國神が現れる。
國「どうかしたか?」
潔「ロッカーが誰かにいじられたかも…凪のは平気なんだけど、千切と俺のはいつもと違ってて…」
國「さっき廊下で、見慣れない男の人とすれ違った。たぶんスタッフの誰かだと思うが……この時間にしては珍しい」
潔「そいつが怪しいってことか?」
國「決めつけはしない。ただ、少し引っかかっただけだ」
千「なんにしても、用心するに越したことはないよな」