第5章 忘れられない人
凛side
自主トレを終え、タオルで汗を拭きながら食堂の前を通りかかった。
何やら中からは相変わらず潔たちの、どうでもいい小競り合いが行われているようだった。
凛(仲良しこよししてたら上に上がれないってのに)
しかしその中にふとの姿を見つけた。
凛(あいつらと一緒の時まで仕事してんのかよ。たまには休めってあれほど言われてんのに)
そんなことを思った瞬間だった。
いきなりが怯えたような表情をして、まるで何かから隠れるようにしゃがみこんだ。
凛(なんだよ……今の)
しばらく見ていると立ち上がったが、その顔は顔面蒼白だった。
凛は周りを見渡した。
何がをそうさせたのか、原因を探るため。
しかしそんなものは見当たらない。
強いてあげるなら、近くにいたのは先ほど廊下を通って行ったアンリと新しいスタッフくらいであった。
凛(あいつらくらいしか見当たらない…一体何が…あっ…まさか…)
凛はアンリの隣にいる新しいスタッフに目を凝らした。
しかしその男は人柄の良い微笑みを浮かべ、時折アンリが顔を赤くしながら話している。
凛(まさか…な)
凛は、それはさすがにないかと、自分を納得させた。
しかしそれならなぜ――あいつの顔が、そこまで怯える必要がある…?
……わからない。だが、見逃す気にはなれなかった。