第5章 忘れられない人
あの人影は、間違いなく——優人だった。
静かな足取りで、こちらに向かってくる。
その姿に、呼吸が止まりそうになる。
(なんで、ここに……!?)
ガラス越しに、優人の目線がこちらを向くその瞬間。
テーブルの陰に隠れるよう、は反射的にしゃがみ込んだ。
凪「…?」
千「どうした?」
凪や千切が心配して話しかけてくる。
しかしそんなのは聞こえないほど、心臓が耳の奥でバクバクと鳴っていた。
ほんの一瞬でも目が合っていたら、確実に見つかっていただろう。
……でも、そのまま優人は廊下を通り過ぎて、曲がり角の先へと消えていく。
(……見つかって、ない……?)
が恐る恐るテーブルから顔を出すと、そこにもう優人の姿はなかった。
國「どうかしたか?急にしゃがみこんで…」
潔「具合悪いなら無理しないで医務室に行った方が…」
二人の言葉に我に返ったは立ち上がった。
「あっ……ちょっと立ち眩みしただけ。ほら、よくあるやつ……だから平気。……全然平気」
小刻みに頷きながらそう言うの顔は真っ青で、明らかに不安に駆られた目をしていた。
國「本当か…?」
「う、うん…」
千「無理すんなよ?」
「うん…ありがとう…」
(どうして…なんで優人がここに…私を探して…?いやでも知らないはず…どうしてなの…)
この日からはまた恐怖と戦う日々を送ることとなってしまった。