第5章 忘れられない人
夕暮れの風が吹き抜けるグラウンド。
橙がかった光が影を長く伸ばす時間帯、潔、千切、凪の3人が姿を現した。
潔「今日こそ凪から1点取る!覚悟しとけよ!」
凪「えー……やだー、めんどくさー」
千切「そう言ってどうせ、またギリギリで止めてくるんだよな……。もうちょい本気でやれって!」
軽口を叩き合いながら、3人はそれぞれのポジションへ散っていく。
潔は俊敏な動きで切り込んでいき、千切は風を裂くように走り抜け、凪は飄々と受け止め、捌いていく。
息の合った攻防のなかに、どこか柔らかな空気が流れていた。
その端で、はベンチに腰掛けて、それを眺めていた。
数日前まで、まともに笑う余裕もなかったのに──
千切「おい、、見てんだろ?ちゃんと俺の速さチェックしとけよ?」
「ふふっ……もちろん。見逃してないよ」
千切の声に、は小さく笑う。
それを聞いた潔が振り返って──
潔「おっ、今笑った」
潔(よし、俺も負けてらんねぇ)
凪「じゃあオレは……もうちょっと見てるだけでいーや」
潔「ふざけんな!」
自然に巻き込むような軽いやりとり。
わざとらしくもなく、過剰でもなく──
ただ、みんながの“笑い声”を引き出すために、そこにいるようだった。
(……なんだろう、こういう時間、すごく久しぶりな気がする)
ふと気づけば、沈みかけの夕日が空を優しく照らしていた。
オレンジ色の空に、柔らかな声と笑顔が重なっていく。
は、自然と胸の奥があたたかくなるのを感じていた。