第5章 忘れられない人
國「でも、こうして顔を見られて……よかった。声聞けて、安心したよ」
(……國神くん……)
國神は、ゆっくりの方に向き直った。
迷いも遠慮も、すべて包み込むような目をして、こう言った。
國「怖いと思ったら、逃げてもいい。無理に強くいようとしなくて
いい。……天羽が笑っていられることの方が、ずっと大事だから」
その言葉に、の胸がじんと熱くなる。
國神はただ、守ろうとしてくれているんじゃない。
ちゃんと、“気持ち”に寄り添おうとしてくれていた。
「……ありがとう。ほんとに、優しいんだね」
國「優しくなんかないよ。……俺は、ただ」
そこで言葉が止まった。
何かを言いかけて、けれどそれを呑みこんで、國神はそっと目を伏せた。
國「もしまた何かあったら、俺に言って。……俺は、味方だから」
それは宣言ではなく、祈るような響きだった。
一瞬だけ、彼の声が少しだけ震えた気がした。
「……うん。ありがとう、國神くん」
そのとき、國神がふと伸ばした手が、さりげなくの頭に触れた。
ゆっくり、そっと撫でるように。その手つきも、彼のまなざしと同じくらい、優しかった。
國「……よかった」
その一言に、すべてが込められていた。