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奪い合う光の中で【ブルーロック】

第5章 忘れられない人


昼過ぎの廊下はしんと静かで、外の光だけが差し込んでいた。
いつものようにグラウンドへ続く扉の前まで行ったけれど、そこには誰の姿もない。
 
(……國神くん、今日は練習してないんだ)
 
少し拍子抜けして振り返ると、奥の休憩スペースに、誰かの背中が見えた。
ソファに腰かけて、静かに本をめくる長身の姿――國神だった。
 
「……國神くん?」
 
國「……あ、。ごめん、驚かせたか」
 
彼はそっと本を閉じると、いつものきりっとした雰囲気ではなく、どこか柔らかい目を向けてくれた。
その表情に、はふと胸があたたかくなるのを感じた。
 
「今日はお休み?」
 
國「うん。潔が“休むのもトレーニングのうちだ”って言うから、素直に従ってみた」
 
そう言って照れたように笑う。その笑みは、静かで、優しくて、どこか切ないものだった。
 
「國神くんが休んでると、ちょっと安心するかも。いつも頑張ってるから…」
 
國「……それ、こっちの台詞だよ」
 
「え?」
 
國神は視線を伏せた。少し迷うようにして、それでもちゃんと言葉を選んで口を開く。
 
國「天羽が……無理してるんじゃないかって、ずっと気になってた。あのあと、ちゃんと眠れてるかとか。笑ってるけど、本当は怖さが残ってるんじゃないかって」
 
「……」
 
國「俺、あの時、何もできなかったから」
 
それは責めるでもなく、自分を責めすぎるでもなく――
ただ、真っ直ぐな気持ちをそのまま言葉にしただけだった。
 
「そ、そんなことないよ…!だって國神くんは一番最初に私のことっ…」
 
國神はそれ以上は言うなとでも言うように、小さく笑いながら首を横に振った。
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