第5章 忘れられない人
凛「でも、俺も探し出してやれなくて悪かった」
は目を丸くした。
あの凛が悪かったと謝ってきたのだ。それもさほど凛が悪くはない事柄に。
凛「いつも俺はあいつらの輪の中には入らないから、気づくのが遅れた」
「そ、そんなっ…凛くんは悪くないよ。私の不注意だから…」
凛「怖かったんだろ」
「凛くん…」
凛「出てきたときのあんたの震え。尋常じゃなかった」
凜はいつも冷たい。
けれど、その冷たさの奥にーー確かにあたたかさがあった。
だからこそ、伝わってくるのだ。静かで優しい"気遣い"として。
「うん…怖かった」
凛はの方に視線を向けた。
が素直に怖かったと認めたことに少し驚いたのだ。
「でも、今は平気だよ。私、強がってるって思われちゃうことが多いんだけど…まぁ実際そうなんだけど…でもこれはほんと。嘘じゃないよ」
凛の目に映るの表情は今までにないほど柔らかい微笑みを浮かべていた。
凛「…」
「みんなのおかげで、凛くんのおかげで、安心していいんだって、私がここに居てもいいんだって、少しずつだけど、そう思えた。ありがとう、凛くん」
凛「…別に俺は何もしてない」
そう呟く凛の耳はかすかに赤く染まっている様だった。
「そっか」
はそれを見てニコリと笑った。
白んでいた空もいつの間にか朝日を受けて、淡く色づいていた。
ーー新しい一日がちゃんと始まっていく。
「それじゃあ、私はそろそろ行くね」
がそう言って背を向けると。
ーーパシッ
凛が行こうとするの腕を掴んだ。
「…?どうしたの?」
凛「…無理するな」
凛はそのまま続けた。
凛「安心していい場所だと思えたなら、もう無理はするな」
そう言うと腕を離した。
「…うん、ありがとう」
凛「もう行っていい」
その言葉にはまた嬉しそうに微笑んで、今度こそその場をあとにした。