第4章 忍び寄る影
皆が朝食を食べ終えると、潔はアンリの元を尋ねていた。
潔「帝襟さん……少し、話していいですか」
ア「……どうしたの? そんな顔して」
潔「……さんのこと、です」
アンリの手がぴたりと止まった。
潔は、あの備品倉庫での出来事を思い返しながら、ぽつりぽつりと話す。
潔「昨日、さんが備品倉庫に閉じ込められて……。最初は“よくあるトラブル”って思ったんですけど、様子が――普通じゃなかった」
ア「……普通じゃ、なかった?」
潔「膝を抱えて、震えてて。何度も“助けて”って小さく呟いてて。……あの反応、ただの暗所恐怖ってレベルじゃないです。帝襟さん、さんから何か聞いてませんか?」
その言葉に、アンリは静かに目を伏せた。
一瞬、迷ったような表情ののち、柔らかく吐息をこぼす。
ア「……やっぱり、気づいちゃったのね。さすがね、潔くん」
潔「……やっぱり?」
ア「……これ、あくまで私が“聞いた話”よ。本人が口にしたわけじゃない。でも――」
アンリは、椅子に深く座り直すと、声をひそめた。
ア「ちゃんの彼氏……正確には“元同居人”かしら。聞くところによると、両親が再婚する前にそれぞれ連れ子だったらしくて、二人だけで暮らしてたの。でも、ある日親たちは突然いなくなって。中学生だったさなちゃんは、ずっとその子と一緒に生きてきたみたい」
潔は黙って聞いている。その瞳は鋭く、真剣だった。
ア「……その子、彼氏のほうがね。ちゃんを強く繋ぎ止めようとしてたって。……それが、どこまでだったかは分からないけど……」
潔「……それって、彼女を……精神的に“支配”してたってこと、ですよね」
アンリは、苦しそうに頷いた。
ア「……恐らくね…ちゃんが一生懸命“普通に”しようとしてるの、すごく分かるの。でも、きっとどこかで無理してる。昨日のその反応は多分……その“鎖”の名残よ」
潔はしばらく沈黙したまま、唇を噛んでいた。
やがて、真っ直ぐにアンリを見上げる。
潔「……僕、力になれると思いますか?」
アンリは――その真剣な瞳に、ふっと笑みを浮かべて。
ア「……ええ。きっと、あなたなら」
アンリもどうかの心が溶けるよう願った。
すでにそうさせた犯人が紛れ込んでいるのも知らずに。