第4章 忍び寄る影
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扉の閉まる音がして、部屋が静寂に包まれる。
ぼんやりと立ち尽くしたまま、は自分の胸元に触れた。
そこにはまだ、彼の体温がうっすら残っている気がして。
「……凪くん」
ぽつりと名前を呟いた。
あの無表情で、面倒くさがりで、でもどこか放っておけない彼が、まさかこんな風に――優しさをくれるなんて思わなかった。
「“気になる”って……」
その言葉に込められたものの意味を、まだ正確にはわからない。
けれど、彼が自分に向けてくれた真っ直ぐさに、胸が少しだけ熱くなる。
「……ありがとう」
誰にも聞こえないような声で、そっと呟いて、布団に身を沈めた。
その夜、はようやく――少しだけ、安心して眠れた。
千切side
千「……ったく、どういうつもりだよ、あいつ……」
2人の様子が気になり追いかけてきた千切は、廊下の角に身を隠すようにして立ち、凪とさなのやり取りを静かに見ていた。
聞こえたのは、優しい声。
感じたのは、あまりにも自然な“距離の近さ”。
千(……凪が、あんな顔するんだな)
面倒くさいことは嫌いで、無関心で、ただサッカーさえできていればいい。
そんな凪が、あの子にだけは違う表情を見せた。
千「……ちょっと、焦るかも」
ぼそりと呟いて、千切は髪をかきあげた。
鼓動が、いつもより少しだけ速い。
自分でも気づかないうちに、の存在が、確実に胸の中で何かを変え始めていた。