第4章 忍び寄る影
部屋の前まで来たとき、はぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、凪くん。……ほんとに、ありがとう」
凪は答えず、少しだけ視線を逸らしたあと、ゆっくりと彼女の肩に手を置いた。
が驚いて顔を上げるよりも早く、ふわりとした感触に包まれる。
ギュッ…
「……っ」
凪「……なんかさ。今は、それくらいしかできないから」
その声は、どこか照れ隠しのように曖昧で、だけど真っ直ぐだった。
は一瞬だけ戸惑ったように目を瞬いたが、やがて凪の胸の中で、小さく身を委ねるように目を閉じた。
心の奥に残っていた、怯えや震えが、ゆっくりと溶けていくようだった。
抱きしめたまま、凪はぽつりと呟いた。
凪「……オレさ、あんま興味ないんだよ。人のこととか、関係とか」
「……うん」
凪「でも、のことは……なんか、気になる」
その“気になる”が何なのかは、まだわからない。
けれど、彼の中で確かに芽生え始めた何かが、そこにはあった。
凪「……もう寝なよ。たぶん、今日は疲れてるし」
凪はそっと腕を解くと、軽く手を振ってそのまま背を向けた。
凪「おやすみ、」
小さな声に、はぎこちなく笑って――けれど心の奥では、ほんの少しだけ、暖かくなっていた。