第4章 忍び寄る影
共有スペースのソファに座ってしばらく経つと、は少しだけ落ち着きを取り戻していた。
顔色はまだ青ざめているが、膝を抱えてうずくまる姿はもうない。
國神はそんなを心配そうに見つめながら、低く落ち着いた声で言う。
國「…部屋、戻れるか。俺、送っていく」
凪「――オレが行くよ」
不意に入ってきた声に、國神がゆっくり顔を向ける。
そこには、片手をポケットに突っ込んだままの凪がいた。
國「お前なんで――」
凪「なんとなく。そうしたい気分だから」
凪はあくびを噛み殺しながらに視線を向ける。
凪「、部屋、どこ?歩けそう?」
その口調は淡々としていたが、視線の奥には微かな優しさがあった。
「……うん。大丈夫……」
凪「じゃ、行こ。あ、國神、別に断られたわけじゃないから気にしないでね~」
國「はあ?そういう問題じゃ……」
國神が苦々しく眉を寄せた。
しかしそんなのは聞こえないかのように凪は続けた。
凪「行こ」
凪はの手を取りそのまま歩き出した。
みんな、凪の行動に驚いた。
も少し驚いたように目を丸くしたけれど、凪の目が一瞬だけ柔らかくなったのに、は気づいたようで小さく頷いた。
廊下を並んで歩く二人。
の歩幅に合わせて、凪はゆっくりと歩いた。
凪「……怖かった?」
凪の問いに、はしばらく沈黙したまま俯いていたが、小さく息を吐いた。
「……うん。ああいう場所、苦手で…」
凪「……そっか」
短く返すその声は、いつになく低くて、優しかった。
「……ごめんね、迷惑かけて……」
凪「別に。迷惑って思ってないし」
凪は少しだけ歩を緩め、の顔を横から見下ろすようにした。
凪「……あんな震えてるの、初めて見た。あれは、ちゃんと誰かに守ってもらわないとダメなやつだよ」
その“誰か”に、自分がなろうとしていることを、自覚していた。
けれど、それを口に出すつもりはなかった。