第4章 忍び寄る影
その夜、は選手たちがトレーニングに使った動画を備品倉庫にしまっていた。
すると、棚の隙間に何か落ちたのだろう。
カチャンと音がした。
「ん?あー…」
は落ちた隙間を見ようと覗いた瞬間、抑えていた扉をうっかり離してしまった。
「あ、まずいっ…!」
しかしそう思った時はもう遅く、バタンっ!と扉は勢いよくしまってしまった。
「あーあ…」
暗くて密室って苦手なのにな…そんなことを思いながらさっさとドアを開けようとすると、何かの拍子に鍵が閉まってしまったのだろう。
「え…嘘でしょ…」
ガチャガチャ、ガチャガチャ!!
何度押しても引いてもドアは開かなかった。
薄暗い狭い空間に閉じ込められたことで、胸の奥にずっとしまいこんでいた記憶がぐわっとよみがえった。
重く沈んだ空気が肺にまとわりつき、吐き出す呼吸さえも苦しくなる。
身体がすくみ、手足の感覚が遠ざかっていく。
そして――胸の奥で、何かが暴れだした。
(また、ここに閉じ込められる……)
かすかに浮かんでくる、記憶の影。
あの時も、電気は消されていた。
無理やり押し込まれた押入れ。
"俺のこと裏切ったらどうなるか、わかってるよな?"
低く、耳元で囁かれたあの声。
ドアの向こうに立つ、"彼"の輪郭。
壁を叩く音。笑っていたはずなのに、次の瞬間には怒鳴り声。
頭が真っ白になる。喉が焼けつく。
「いやだ……いやだ、いやだっ……!」
パニックが波のように押し寄せ、現実逃避をするかのように目をぎゅっと瞑り、膝を抱えたさなの体は小刻みに震えた。
「……助けて……助けて……」
震える声が自然と漏れた。
「ぐすっ……ぐすんっ……」
自分の啜り泣く音が、倉庫の中で虚しく響く。
「……誰か……っ」