第4章 忍び寄る影
潔side
自主トレを終えて、千切と並んでベンチに向かう途中、ふと目に入った姿があった。
潔(さん……?)
窓際に腰かけ、まどろむように目を閉じている。その表情は、どこか張りつめた糸が一瞬だけ緩んだようだった。
國神が言っていたことを思い出す。
國『最近、あいつ無理してる感じがする。朝も夜も動き回っててさ。昨日も遅くまで資料整理してたっぽくて…』
潔「……おはよう、さん」
声をかけると、ははっとして姿勢を正した。その慌て方に、やっぱり無理してるんだな、と小さく胸が痛む。
潔(俺たちの前では笑ってるけど、あれが全部じゃないんだろうな)
千切も自然に声をかける。
千「ちゃんと休めよ? 倒れたりしてほしくないし」
潔はその横顔を見て少し笑った。
思ってることは、案外同じなのかもしれない。
自分がここにいる意味を、さんもきっと探してる。
それなら――少しでも、力になれたらいい。
千切side
千切は汗を拭いながら、に目をやった。
その顔に残る、わずかな疲労の色。
寝てたことを気にしてる様子に、何も言わずにはいられなかった。
千(……そうやって、張りつめてるから疲れるんだよ)
ほんの少し前まで、自分もそうだった。
期待に応えなきゃ、評価されなきゃって、自分を追い込んで。
そういうのって、誰も気づかないうちに限界がくる。
千「ちゃんと休めよ?倒れたりしてほしくないし」
口に出してから、自分でも驚いた。
他人にそんなこと言えるようになったんだなって。
けど、それだけの存在が気になってたんだと思う。
あの子がここで居場所を見つけたいなら、俺は――
千(無理すんなよ、ちゃんと……支えるからさ)
心の中で、誰にも聞こえないように呟いた。