第4章 忍び寄る影
トレーニングルームの片隅、窓際のベンチには静かに座っていた。
朝からの業務をこなし、少しだけ休憩を取ろうと腰を下ろしたつもりだった。けれど、昨夜はあまり眠れなかったせいか、いつのまにかまぶたが重くなっていた。
(……少しだけ、目を閉じよう)
そう思った数秒のつもりが、気づけばうとうとと浅い眠りに落ちていた。
誰かの笑い声が、遠くで響く。
その音に目を覚ましたとき、はハッとして背筋を伸ばした。
(やば……少し寝ちゃってた……)
自分でも驚くほど深く息を吐いて、頬を軽く叩く。
ただでさえ、まだ"マネージャー"として信頼を築いている途中。
気を抜いているところなんて、見られたくなかった。
けれど、目を覚ました自分に向けられたのは、冷たい視線ではなく、気さくな挨拶だった。
潔「おはよう、さん」
千「お、もう来てたんだ。朝からがんばるね」
笑顔で声をかけてくれたのは、潔と千切だった。
二人は汗を拭いながらドリンクを片手にしている。
どうやらすでに自主トレを終えた後のようだった。
は慌てて立ち上がり、小さく会釈する。
「あ、おはよう。ごめん、ちょっとだけ……目を閉じてて……」
潔「ん?全然いいと思うよ。昨日の夜、遅くまで書類整理してくれてたんだよな? 國神が言ってたよ」
千「ちゃんと休めよ? 倒れたりしてほしくないし」
二人の言葉は優しく、責めるものではなかった。
「……ありがとう…」
一瞬、どう返せばいいのかわからなかった。
けれど、誰かが自分のことを見ていてくれて、気づいてくれている。
それだけで、胸の奥に小さな温かさが宿り、自然と頬が緩んだ。
ほんの数分の休息。
でもその間に交わされた言葉が、の疲れた心に静かに沁みていた。