第4章 忍び寄る影
凪「ん? 國神~……あれ、?」
眠そうな声とともに現れたのは凪だった。寝癖がついたままの髪に、ジャージの上を羽織ったラフな格好。
凪「ふーん……朝から一緒か。へぇ~」
どこか意図を含んだような言い方に、國神がほんの少しだけ眉を動かす。
國「何しに来た、凪」
凪「いやぁ、部屋にずっといるのもな~って思って。あ、も来てたんだ。えらいね、朝から」
凪はポンとの頭を撫でると、にこりと笑って、トレーニングマットの上にごろんと寝転がる。
は思わず微笑んで、「凪くんもえらいよ」と返した。
その笑顔を見た國神は、何も言わなかった。ただ、ふと横を向いたその目の奥に――少しだけ揺れがあった。
國(……ああいう自然な笑顔、俺には引き出せないのかもな)
一瞬だけ、胸の奥がざらついた気がした。
ごろりと寝転がったまま、凪がぽつりと言う。
凪「って、笑ってるけどさ……ほんとの笑顔じゃないとき、あるよね」
「えっ……」
唐突な言葉に驚いたのはだけではなく、國神もわずかに視線を動かす。
凪「いや、別に悪いとかじゃなくてさ。そういうのって、なんか……気になるじゃん?」
寝転がったままの目線。けれど、その目はまっすぐで、どこか見透かすようだった。
凪「國神、さっきのこと“ほっとけなかった”って言ってたでしょ。……同じだよ。俺もさ、なんか気になって起きたくなった」
國「は?お前聞いてたのかよ」
そう返す國神の声はわずかにトゲを含んでいたが、凪は気にする様子もなく、欠伸まじりに天井を見上げた。
凪「うん、たまたまね……朝って、空気きれいだよねぇ。ここ、静かだし。も、ちょっとは息抜けた?」
は、頬に触れたあたたかさと、その気遣いに、胸の奥がじんわりと緩むのを感じていた。
「……うん。なんか、ありがとう」
凪「んー。別に俺、なにもしてないよ。いつも通り、いるだけ」
軽く返す凪の言葉に、國神はふいに目を伏せた。
國(……ただいるだけ、か。それができるやつが、どれだけ強いか)
無口な優しさと、気まぐれなあたたかさ。
どちらも、の心にそっと触れていた。