第4章 忍び寄る影
薄明かりの差す廊下を、二人でゆっくり歩く。
話すでもなく、黙るでもなく、足音だけが心地よく響いていた。
施設内のトレーニングルームは、朝の静けさの中にあった。誰もまだ来ていないその空間に、ふっと空気が緩んだような安心感があった。
國「ここ、朝は静かなんだ。集中しやすい」
國神がそう言いながら、トレーニングウェアのラックに目をやる。彼の声はあくまで淡々としていて、でもどこか落ち着いていた。
「……國神くんは、毎朝ここに来てるの?」
國「たまに。気分転換にもなるしな。あと、身体動かした方が、頭も回る」
「……うん、なんかわかるかも。さっきより、ちょっとスッキリした気がする」
そう言って微笑んだを、國神は少しだけ横目で見る。
國「……お前、そうやって無理して笑うの、得意そうだな」
「えっ……?」
唐突な言葉に目を見張ると、彼は何かを察したように、視線を前へ戻した。
國「……悪い。言いすぎたかも」
「……ううん。合ってるから。私……こういうとき、笑ってごまかす癖があるみたい」
ぽつりとこぼしたの声は、自分でも気づかないくらい小さくて、弱かった。
しばらくの沈黙のあと、國神がゆっくりと口を開いた。
國「……俺は…」
「……うん」
國神はさなをまっすぐに見る。その目は真剣で、まるで自分の弱さごと見透かしてくるようで。
國「……俺は天羽がここにいるの、間違ってないと思う。昨日も、朝早く掃除してたよな。今日も無理して出てきてる。理由は聞かないけど、ちゃんと見てる人は見てる」
その言葉が胸に届いたとき、は目の奥がじわっと熱くなるのを感じた。
「……ありがとう、國神くん」
自分でも驚くほど小さな声だった。けれど、彼はうなずくだけでそれをしっかり受け取ってくれた。
そのとき、後ろの扉が開く音がして、ははっとして振り向いた。