第4章 忍び寄る影
――それは、誰にも気づかれない形で、静かに近づいていた。
がそんな希望を抱いた夜、施設内の一角にある、管理資料の保管棚を整理していた。
「ふぅ……これで、あと3段分」
背伸びをしながらファイルを棚に収めようとしたそのとき――
カサリ、と不自然な音が足元でした。
「え……?」
目を向けると、床に落ちていたのは黒い封筒。
封緘もされておらず、ただの無記名。誰宛てかもわからない。
(……ここにあったもの?)
拾い上げ、何気なく中をのぞいた瞬間、の動きが止まった。
そこには、白い便箋が一枚。
そして、どこか見覚えのある、ぞっとするほど丁寧な字。
『ずっとそばにいるからね』
(……っ!)
ぞわり、と背筋を冷たい指で撫でられたような感覚。
指先が震える。心臓が、喉元でどくんと跳ねた。
「どうして……ここに……?」
一瞬にして全身の毛穴が開き、あの声が、あの視線が、あの支配するような気配が――脳裏に蘇る。
落ち着かせようと深呼吸するも、胸がつかえて苦しい。
(まさか……ここにいるの? でも、そんなはず――)
ここは“彼”の知るはずのない場所。
ブルーロックは、部外者の立ち入りを厳しく制限されている。
(落ち着け……これは、たまたま……)
自分にそう言い聞かせるも、資料整理室に一人きりだというのに、誰かにじっと背中をなぞられているような、そんな感覚がして、は慌てて周囲を見渡した。
だれもいない。
けれど、それが余計に不気味だった。
(気のせいだよ……きっと誰かのいたずらか、ただの偶然……)
急いで部屋に戻ると封筒を引き出しの奥にしまい込む。
けれどその文字は、網膜の裏に焼きついたまま離れなかった。
「――大丈夫、大丈夫……私、ここでは平気なんだから……」
その表情からは、笑顔も安心も、昼間に抱いた希望も、すべてが霧のように消えていた。