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奪い合う光の中で【ブルーロック】

第3章 意識の始まり


千切side


その日、練習はハードだった。
調子が悪いわけじゃない。むしろ感覚は冴えてる。
……ただ、膝が、少しだけ、鈍く痛んでいた。
 
千(……ま、平気だろ)
 
慣れてる。
そう言い聞かせて、最後までいつも通りに走り抜けた。
けど――練習も終盤に差し掛かったところから、違和感が増してきた。
 
そんな時だった。
 
「……千切くん、ちょっと来て」
 
廊下の端っこで、不意に呼び止められる。
困ったような、でも真剣な眼差しだった。
 
千「……なに」
 
「右膝、痛いでしょ」
 
その一言に、ドキッとする。
言い訳しようとしたけど、視線があまりにもまっすぐで、何も出てこなかった。
 
言われるがまま控え室のベンチに腰を下ろすと、
は慣れない手つきでテーピングを取り出した。

千(……慣れてないの、わかるけど…なんでこんなに、丁寧なんだよ)
 
「……無理して悪化させたら、どうするの。サッカーできなくなったら、どうするの」
 
千「……別に、そこまでじゃねーよ…」
 
苦笑混じりに言ったけど、彼女の手は止まらなかった。
 
「“そこまで”って、千切くんは平気でも、膝は平気じゃないよ」
 
怒ってる。
あのが。
いつもおどおどしてて、人の顔色ばっか気にしてるくせに、こんな時だけ、ちゃんと怒る。


千「……自分のことは無理するくせに」
 
ポツリと出た言葉に、は一瞬だけ目を見開いて、それから視線を逸らした。
 
「……それは、私のことだから。でも千切くんは、違うから」
 
いつもは弱く見えるその声が、今は少しだけ強かった。
 
千(……なんだよ、まじで)
 
胸の奥が、妙に熱い。
怒られたのに、嫌じゃなかった。むしろ、心に沁みた。
 
気づかれたこと、見られてたこと――
自分の強がりを、黙って受け入れられたことが、何よりもこたえた。
 
千「……ありがとな」
 
ぽつりと呟いたその一言に、は少しだけ笑った。
いつものおだやかな笑顔だった。
 
千(……なんか、また変な感じ)
 
痛みはまだ少し残ってるけど、
それ以上に、心がざわついていた。
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