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奪い合う光の中で【ブルーロック】

第3章 意識の始まり


その日、練習の最後にスプリントメニューが追加されていた。
 
皆が疲れを見せるなか、千切は一歩も遅れまいと、いつも通りに全力で走り切っていた。
 
だが。
 
(……千切くん、足……)
 
集合解散の直前、千切がほんの一瞬、右膝をかばうような動作をしたのをは見逃さなかった。
 
目をこらさないと分からないような、ほんの一瞬。けれど、見えてしまった。
 
——その無理してる感じが。
 
「……千切くん。ちょっと来て」
 
いつもより少し低めの声。
はっきりとした口調に、千切は一瞬「え?」と目を丸くしたが、素直についていった。
 
控え室の奥、人気の少ない場所に入ると、は小さく言った。
 
「右膝、痛いでしょ」
 
千「……っ、なんで……」
 
「……気づいた。走り方、ちょっとだけ変わってた」
 
千切は苦笑した。
 
千「……すげーな…。スタッフでもそこ気づくやつあんまいねーのに」
 
「座って。テーピングするから」
 
手早く膝下までジャージをまくり、用意していたテープを取り出す。
 
千「いや、いいって。そこまでやらなくても——」
 
「……無理して悪化させたら、どうするの。サッカーできなくなったら、どうするの」
 
その言葉に、千切の動きが止まった。
 
千「……別に、そこまでじゃねーよ…」
 
「“そこまで”って、千切くんは平気でも、膝は平気じゃないよ」
 
テープを巻く手はぎこちないけど、真剣だった。
 
千「……自分のことは無理するくせに」
 
「……それは、私のことだから。でも千切くんは、違うから」
 
少しの沈黙。
千切はゆっくりと、彼女の顔を見た。
 
千「……ありがとな」
 
その声は、どこか照れていて、でも確かだった。
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