第3章 意識の始まり
凛「……ただ、勘違いはするなよ」
凛が視線をずらし、静かに言葉を続けた。
凛「ここにいるやつらは、ほとんどが“誰かに優しくしてもらう”ことより、“自分がどう上に行くか”しか見てない。……だから、あんたが頑張ってても、ちゃんと見てるやつばっかじゃない」
「……」
凛「なのに、誰かの言葉とか態度に期待してたら――そのうち、勝手に傷つく。……そういう場所だ、ここは」
その声に怒気や否定はなかった。
ただ、事実だけを淡々と伝えるような響き。
は、胸が少しだけ締めつけられるような感覚を覚えながらも、静かに言った。
「……それでも、私は見ていたいんです。みんなが頑張ってるのを。支えられる存在になりたいから」
凛は返事をしなかった。
けれど、その沈黙の中で、どこか納得するようにまぶたを一瞬伏せたのを、は見逃さなかった。
そして凛は、ふっと息を吐いた。
凛「……面倒くせーな」
「えっ……」
凛「そういう“頑張るやつ”見ると、何か言いたくなるんだよ。……別に悪い意味じゃない。……たぶん」
それは、凛なりの好意の片鱗だった。
の姿勢や言葉に、どこか昔の自分――あるいは兄の姿を重ねたのかもしれない。
だから、放っておけなかった。
凛「……あんた、夜に1人であんまうろつくな。」
「…?」
凛「怖がりだろ。どうせ。」
「そんなことは…」
凛「さっき話しかけた時、少し怯えてた。びっくりして、肩揺らしてたし……でも、俺もここ通りたかったから。じゃあな」
そう言って去っていく凛の背中。
(あれは凛くん…だよね。……やっぱ少し、変わった人だな。でも……優しかったのかな)
は静かに微笑み、再び夜の空気に一息ついた。