第3章 意識の始まり
ブルーロックでの日々は、慌ただしくも少しずつ馴染み始めていた。
緊張と戸惑いの中で過ごした最初の頃とは違い、今はほんの少しだけ、自分の居場所を感じられるようになってきた――。
掃除、洗濯、差し入れの管理。最初は手探りだったが、アンリの助けや、選手たちの反応にも少しずつ笑顔が見えるようになった。
「ありがとう」「助かったよ」そんな言葉が、まるで魔法のように、の心の疲れをふわりと和らげてくれる。
――今日は、久しぶりに少しだけ時間が空いた。
は、食堂兼共有スペースの隅にあるテーブルに腰を下ろし、水を一口飲んでから、手元のノートを開く。
(メンバーの名前、顔、ロッカーの場所、洗剤の位置……)
手書きでびっしりと書かれた字に、少しずつ慣れ始めた証が滲んでいた。
「……あれ?」
不意に、視界の端で誰かの影が動いた。
顔を上げると、あの日洗濯室で一緒になった――國神錬介が、タオルを肩にかけてドリンクを片手に入ってくるところだった。
「あ……國神くん」
声をかけると、國神もこちらに気づき、足を止めた。
國「天羽……」
名前を覚えてくれていたことに、胸の奥が少し熱くなる。
「はい。お疲れさまです。練習のあとですか?」
國「あぁ。ちょっと早めに上がって、身体冷やしに来たとこ」
「そうだったんですね。……良ければ、これ、飲みますか?冷やしておいたやつ、余ってたので」
が差し出した冷えたスポーツドリンクに、國神は一瞬だけ目を細めて受け取った。
國「……悪い。助かる」
彼の言葉はいつも短い。でもその奥にある不器用な優しさに、はほんの少し心が温かくなるのを感じていた。
(……こんなふうに、必要とされることが、こんなに嬉しいなんて)