第17章 凛
思わず顔を上げると、そこには凛が立っていた。
目の前の状況に、一瞬だけ驚いたように瞬きして、すぐに静かな目に戻る。
そして、何も言わずにゆっくりと歩いてくると、のそばにしゃがんだ。
凛「……勝手に入った。悪い」
それだけ。
謝る声はどこまでも淡々としていて、それでも、確かな“気遣い”があった。
無理に理由を聞こうとしない。
励ますような言葉もかけてこない。
ただ、そばにいる。
凛「……泣いてるとこ、見られるの嫌だったら、何も見なかったことにする。だから、どっちでもいい。怒っても、黙ってても」
そう言って、凛は少しだけ背を引いた。
でも、その目はちゃんとを見ていた。
は、うまく言葉が出てこないまま、ただ視線を落とす。
少しの沈黙のあと、ぽつりと声が漏れた。
「……なんで……凛くんまで、そんな優しくするの……?私なんかに……そんなふうにしても、意味ないのに……」
凛は、わずかに目を細めた。
そして、ほんの小さく息を吐く。
凛「まだそんなこと言ってんのか。“私なんか”って」
の肩がわずかに揺れた。
凛「……“汚れてる”とか、そんなこと。……言わせねぇぞ、そんなの」
その声は、決して強くはなかった。
でも、どこまでもまっすぐで、揺らぎがなかった。
凛「どんな過去があっても、何があっても……俺にとってのお前は、ただ“お前”だから。……それ以上でも、以下でもない。変わらない」
その言葉に、の目から、また涙がこぼれた。
誰よりも静かで、誰よりも優しいその言葉が、
胸の奥に、そっと、深く染みていった。