第16章 國神
國神の言葉が胸に沁みて、は一瞬、息を呑んだ。
國「が好きだ」
そのひとことは、静かで、あまりにもまっすぐで。
言葉の奥にある気持ちが、まるごと届いてくるようだった。
何か言わなきゃ、と思っても、喉がうまく動かない。
涙で滲んだ視界の中で、國神の顔がぼやけて、それでもはっきりと温かくて。
は震える指で、そっと國神の頬に触れた。
あたたかかった。
掌の下にあるその体温が、怖さよりも安心をくれた。
「……國神くん……」
喉が震えながらも、唇はしっかり動いた。
「……私も……國神くんが、好き」
彼の目が、少しだけ見開かれた。
そして、すぐにゆっくりと細められ、
心から安堵したような微笑みを浮かべた。
國神は、の手をそっと両手で包み、指をやさしくなぞったあと、少しだけ顔を近づけながら静かに囁いた。
國「……触れても、いい?」
が、小さくうなずく。
國神はそっとの頬に手を添え、
あたたかな目で見つめながら——
静かに、まっすぐに唇を重ねた。
やわらかく、やさしく。
けれど確かに“好き”が伝わる、深いキスだった。
心のどこかで閉ざしていた扉が、
そのキスで、ゆっくりと開いていく気がした。
“こんな自分でも、誰かを好きになっていい”
“好きになってもらっていい”——
ようやく、そう思えた。
唇が離れたあとも、國神はまだの頬に触れていた。
國「……これからも、お前のそばにいたい。…ちゃんと向き合って、大事にしていきたいと思ってる」
は、涙のにじむ目で彼を見つめながら、
ふっと小さく微笑んだ。
——もう、大丈夫。
彼となら、これからの時間を歩いていける。
そう、心から思えた。
ーfinー