第16章 國神
涙は、なかなか止まらなかった。
誰にも見せたくなかったはずの弱さを、
いま目の前の人に見られてしまっているのに。
けれど、國神はなにも言わなかった。
責めることも、詮索することもせず——
ただそこにいてくれた。
その静けさに、は少しずつ、呼吸を整えていった。
そして、自分の手のひらを見つめながら、ぽつりと呟く。
「……ごめんね、國神くん……こんなとこで、泣いて……変だよね……」
國神は、ゆっくりと首を振った。
國「変じゃない。……泣きたい時に泣いていいんだ。俺だって、泣くことくらいあるし……」
その言葉が、じんと胸にしみて、また涙が溢れそうになる。
少しの間、静寂が流れたあと——
國神は、迷うように言葉を選びながら話し出した。
國「……無理に聞くつもりはないけど…もし、話したくなったときは……俺に聞かせてほしい。誰にも言えないことでも、俺はの言葉をちゃんと受け止めたいと思ってる」
その言葉に、胸がきゅっとなる。
優しい。
ただ優しいだけじゃなくて、ちゃんと“私の意思”を見てくれている。
は、膝の上で指を重ねながら、小さく震えた声でつぶやく。
「……國神くんって、ずるいね…そんなふうに言われたら……話したくなっちゃう」
そして、ひと呼吸置いてから、ぽつぽつと語り出す。
「最近、みんなが優しくしてくれるのが、すごく嬉しいのに……それを受け取っていいのか、ずっとわかんなくて……ほんとは、こうやって泣いたときに誰かにいてほしくて……優しくされたいのに……そんなの、望んじゃいけないって……思ってた」
声が震えて、涙がまた頬を伝う。
國神は黙って聞いていた。
何も遮らず、ただ“そこにいる”ということだけで支えてくれていた。
そして、の言葉は、やがて——
「……私なんかが、こんなふうに思っちゃいけないのに……優しくされる資格なんて、ないのに……」
ほんの少しだけ、言葉に詰まって。
喉の奥で、なにかがつっかえるような感覚のまま、ぽつりとこぼれた。
「……私なんて……もう、汚れてるのに…」
その瞬間だった。