第15章 凪
凪「のこと、……好きだよ、俺」
凪がそう言ったあと、部屋の中はまた静かになった。
でもその静けさは、不安でも緊張でもなくて——
まるで何かがほどけたあとの、心地いい余白だった。
は、胸の奥がじんと熱いのを感じながら、
ゆっくりと目を伏せた。
怖かった。
自分の想いを伝えるのが、何より怖かった。
それでも——
「……私も、凪くんのこと……好き」
声に出した瞬間、涙が零れた。
言ってはいけないと思っていた言葉。
自分にその資格なんてないと思い込んでいた気持ち。
でも、いま確かに伝えたことで、
ずっと塞がっていた何かが、少しずつ開いていく気がした。
凪は、一瞬驚いたように目を瞬いたあと、
ふわりと微笑んだ。
凪「……そっか。じゃあ、両想いだね」
当たり前のようにそう言う声が、やさしくて、やさしくて——
は、こらえていた涙がまた溢れた。
その涙に、凪は何も言わず、そっと自分の肩にの頭を乗せさせた。
凪「……疲れたなら、寝てもいいよ。俺、動かないし」
本当に動かなさそうなその声に、小さく笑ってしまった。
笑って、泣いて、また笑って——
少しずつ、心が温かくなる。
「ねえ、凪くん……」
凪「ん?」
「これからも……隣にいてくれる?」
凪は、短く「うん」とだけ答えた。
そして、ためらいもなく、の手を取って、ぎゅっと握る。
凪「……めんどくさいのは嫌いだけどさ…。といるのは、全然めんどくさくないんだよね。不思議」
その一言が、たまらなくうれしかった。
誰かといることが、こんなにもやさしくて、
あたたかいものだったなんて——
あの暗い部屋の空気さえ、
今は、どこか違って見えた。
もう、怖くない。
隣に、こんな風に自分を見てくれる人がいるから。
ーfinー