第15章 凪
キスの余韻が、まだ胸の奥に残っていた。
どこか現実感のない時間の中で、
凪は、ほんの少しだけ視線を落とした。
凪「……ごめん。勝手にした」
ぽつりとこぼされた言葉は、
あまりに静かで、かすれていた。
きっと、彼なりに迷いがあったのだと思う。
何も言わずに触れたことを、少しだけ後悔したのかもしれない。
でも、はただ首を振った。
「……嫌じゃなかったから」
そう返した自分の声が、少しだけ震えていた。
それを聞いて、凪はほんの少しだけ口元を緩めた。
そして、いつになく真剣な顔で、の瞳をまっすぐに見る。
凪「……俺、あんまり、そういうの得意じゃないけど」
凪「でも……ちゃんと言った方がいいって、今は思うから」
少しずつ、言葉を探しながら——それでも、途中で止まることはなかった。
凪「のこと、……好きだよ、俺」
その言葉は、飾り気もなかった。
だけど、凪がどれだけ不器用にこの言葉を出してくれたかがわかって、
胸の奥がぎゅっと熱くなった。
誰かに「好き」と言われるのは、怖かった。
信じてしまいそうで、期待してしまいそうで。
でも、凪の言葉は、どこまでもまっすぐで——傷ついた心の奥に、すっと届いてくるようだった。
は何も言えなかったけれど、
涙をこぼしながら、静かに頷いた。
凪はそれを見て、ようやく安心したように、ふっと息を吐いた。