第15章 凪
ふいに顔を上げると、そこに立っていたのは凪だった。
手ぶらのまま、眠そうな顔で。
でも、いつものだるげな雰囲気とは少し違って見えた。
彼は無言でこちらを見ていたけれど、
何かを感じ取ったように、すぐに視線を逸らし、部屋の中へと足を踏み入れてくる。
「……どうして……ここに」
泣いていたところを見られたくない気持ちと、
それでも彼に来てほしいと思ってしまう気持ちが、喉の奥で絡まってうまく言葉にならない。
凪「んー……なんとなく、かな」
そう言って、ぽすんとの隣に座る。
深く考えてないようでいて、
何も言わないまま横にいるのが、凪らしい優しさだった。
部屋にまた静けさが戻る。
それでも、どこかその沈黙が、少しだけ落ち着けるものに変わっていた。
凪「……ここ、あんま好きじゃないの?」
ぽつりと落とされた言葉に、の肩がわずかに揺れる。
図星すぎて、反応できなかった。
それなのに、凪はそれ以上何も聞こうとはしなかった。
ただ、膝を立てて座ったまま、ぼんやりと遠くを見ている。
「……やっぱり、わかるんだね」
凪「なんとなく…ね」
それは、責めるようでもなければ、慰めるようでもない。
ただ、そこにある事実を、素直に受け止めてくれる声だった。
は、自然と横を向いて、彼の横顔を見つめた。
どこかふわっとした目元。眠そうなくせに、ちゃんと見てくれている。
「……優しいね、凪くん」
その言葉に、凪は少しだけ顔をしかめた。
凪「別に。俺が好きなものに優しくしてるだけ」
その言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
でも、少し遅れて、胸の奥がじわりと熱を持つ。