第14章 潔
潔「のことが好きだ」
その言葉が、胸の奥に染み込むように届いた。
飾らない声だった。
勢いに任せたものでもなかった。
でも、確かにそこには、
ずっと積み重ねてきた想いが宿っていた。
は、俯いたまま、しばらく動けなかった。
それでも、胸の中で何かがほどけていくのがわかる。
誰かに“好き”だと言われることが、
こんなにもあたたかいものだったなんて、忘れていた。
自分はもう、そんな風に誰かに想われる資格なんてない。
そう思っていたのに——
「……ありがとう」
声はかすれていた。
でも、潔はしっかりと、微笑んで聞いてくれていた。
「私……ずっと、自分が嫌いだった…どうせ、何をしても誰かの邪魔になるって……思い込んでた。でも……」
そこで言葉を切って、ゆっくりと顔を上げる。
目が合った瞬間、また少しだけ胸が熱くなった。
「潔くんが、見てくれてたから……私、今ここにいるんだと思う」
潔「…」
「私も……好き。潔くんのこと」
潔の瞳が、ふっと見開かれ、次の瞬間にはやわらかく笑っていた。
何も言わず、ただ頷く仕草が、
きっとそれ以上の言葉だった。
ふたりの間に、沈黙が流れる。
でもその沈黙は、さっきまでのような重たいものではなくて、
なんとなく心地よい、ひとつの呼吸のようだった。
潔がそっと立ち上がる。
それでも、触れようとはしない。
けれどその代わり、まっすぐな声で言った。
潔「……これからも、隣にいていい?」
その問いに、は微笑んで頷いた。
言葉は少なかったけれど、心はもう通じ合っていた。
その日、扉の向こうには、夕暮れの余韻がまだ残っていた。
二人の間に流れる空気は、優しくて、あたたかかった。
ーfinー