第14章 潔
その言葉に、潔はすぐには返事をしなかった。
焦ることなく、すぐに反論することもなく、
彼は静かに、じっとを見ていた。
一拍、二拍、間があって——
潔「……それ、誰に言われたの」
低く、静かな声だった。
問いかけというよりも、確認するような響きで。
潔「自分でそう思ったの?…それとも、……誰かに、そう思い込まされたの?」
は、返せなかった。
目の奥が、じわりと熱くなる。
誰かのせいだなんて、言いたくなかった。
けど、それを否定することもできなかった。
潔は立ち上がり——けれど、近づくことはしなかった。
ただ、から一歩だけ視線の高さを合わせるように腰を落とし、
ゆっくりと、言葉を選ぶように話し出す。
潔「……がどういう時間を過ごしてきたか、俺には全部はわかんない。でも、わかることがある」
そこで一度、視線が真正面から交わった。
潔「は、誰より優しくて、誰より強い人だよ」
「…」
潔「自分のことより、誰かを優先してばっかで。傷ついても黙って笑ってて……。…それって、“汚れてる”なんて言葉と、いちばん遠い場所にいる人だろ」
その言葉に、息が詰まった。
どうしてこんなに、まっすぐに言えるんだろう。
どうして、自分が見下していた自分を、
彼はこんなに堂々と認めてくれるんだろう。
潔は、少しだけ表情を柔らかくして言った。
潔「のこと……俺は、ちゃんと見てきたつもりだよ。何度も何度も、見直して、気づいた」
潔「俺……」
潔「のことが好きだ」
その声は、真っ直ぐで、飾り気がなくて。
けれど、どんな言葉よりも強くて、優しかった。
触れもしない距離から、
でも確かに、心に届いてくる。
あたたかくて、くるしくて、涙がまた零れそうになる。
でも今度は——その涙に、理由があった。