第13章 千切
目が合う。
真っ直ぐな、柔らかい光の奥に、熱を孕んだ瞳。
その熱に、胸がまたきゅっと締めつけられた。
千「ねえ、」
少し間を置いて、千切が口を開く。
千「俺さ、……本当はずっと迷ってた。……こうして近くにいるの、がつらくならないかなって思ってたし、俺なんかが踏み込んじゃいけないんじゃないかって……怖かった」
視線を逸らすように、一度だけ目を伏せて、
でもすぐ、またの瞳を見つめ返す。
千「でもね」
声が少しだけ震える。
千「それでも、といる時間が増えるたびに、どんどん気持ちが大きくなって、もう目を逸らせなくなったんだ」
頬に触れていた手が、ほんの少しだけ力をこめた。
千「……ちゃんと伝えたい。、俺は……
——好きだよ」
どこまでも真っ直ぐで、どこまでも静かな、でも芯のある言葉だった。
流れで漏れた“好き”じゃない。
迷いも戸惑いも全部抱えたうえで、それでも選んだ言葉だった。
の目に、また涙が滲む。
胸の奥にこびりついていた「どうせ誰も私を選ばない」という思い込みが、
その言葉ひとつで、ゆっくりと崩れていく。
「……ほんとに?」
掠れた声がこぼれる。
「……私、重いし、めんどくさいし、……いっぱい間違えてきたよ……?」
でも、千切は少しも顔を曇らせなかった。
むしろ、愛おしそうに笑って、言った。
千「うん。……それでも、全部含めて好き」
そのまま、の手を自分の胸の上に当てて、微笑む。
千「…早いでしょ……と一緒にいるから。触れてるから」
千「……嘘じゃないよ」
「……そっか」
は、自分の胸に当てられた手のひらの感触を感じながら、
静かに目を閉じた。
誰かの心の音を、こんなに近くで感じることが、
こんなにあたたかいものだなんて、知らなかった。