第13章 千切
沈黙が、そっと部屋を包んでいた。
聞こえるのは、どこか遠くの鳥の声と、
カーテンが揺れるかすかな音だけ。
千切は何も言わずに、の隣に座っていた。
落ち着かせようとも、問い詰めようともせず、
ただ、そばにいてくれていた。
は、ふと千切の横顔を盗み見る。
その瞳はまっすぐだった。
揺れてもいないし、戸惑ってもいなかった。
見つけてしまった自分の涙に、困っているような顔でもなかった。
そのことが、嬉しくて、そして少しだけこわかった。
「……ごめんね」
ぽつりと、口に出ていた。
「ほんとは……誰にも見られたくなかったの。泣いてるところなんて、情けないし、カッコ悪いし……」
千「……ううん」
千切はすぐに首を振る。
千「カッコ悪くなんかない。笑った顔が見たいけど、泣いてるとこも、……別に嫌じゃないよ」
その言葉は、まっすぐで、優しかった。
だからこそ、隠していた言葉が、つい零れてしまった。
「……私、ね……」
言いかけて、少し息を吸う。
胸の奥が軋む音が聞こえる気がした。
「……私は、もう…汚れてるよ」
千切の目が、ゆっくりと揺れる。
でも驚きでも拒絶でもなく——痛みを映したような、そんな表情だった。
「たくさん間違えた。……間違えたのに、止められなくて。優しくされたら、縋ってしまいそうになるし……苦しいって言いながら、何もできなかった。そんな私が、誰かに優しくされる資格なんて、ほんとはないのに」
言葉が、喉の奥で震える。
ひとつ吐き出すたび、どこかで鍵が外れていくようで怖かった。
でも、言ってしまいたかった。
見透かされたような優しさに、隠していた心がほどけそうだった。
「だから……ほんとは、ここで泣いてるのも、変なんだよ。誰かを好きになる資格も……私にはないの……」
それ以上、言葉にできなかった。
胸が詰まって、視界がにじんだ。
そのとき——
千切は、ゆっくりと手を伸ばして、の頬に触れた。
涙のあとを指先でなぞるように、そっと、優しく。
そして次の瞬間