第11章 愛し方の答え
こうしては、みんなの優しさに支えられながら、静かに日々を過ごしていた。
誰もがさりげなく気遣ってくれて、必要以上に踏み込んではこない——そんな距離感が、今のにはちょうどよかった。
今日は、昨日みんなが手伝ってくれたおかげか、予定していた作業がずいぶん早く終わった。
夕方にはすっかり片づけも終わり、久しぶりに“空白の時間”ができた。
(……何しようかな)
何も予定がないというのは、こんなにも落ち着かないものだったっけ。
本当はやりたいことなんて、山ほどあるはずなのに。
なぜだか、足はそのまま、ゆっくりと建物の奥へと向かっていた。
目的もなく歩いていたはずなのに、
気づけば、中庭に面したあの小部屋の前に立っていた。
誰も使わない部屋。
優人に、もう一度捕まってしまったのも——ここだった。
ドアノブに指をかけると、
あのときの冷たい空気と、自分の震える声が、鮮やかに蘇ってくる。
それでも、逃げる気にはなれなかった。
私はそっと扉を開けて、静かに中へ入る。
静かな空気。
簡易ベッドの上に落ちる光。
位置の変わらない椅子。
誰にも触れられていない埃の匂い。
すべてがあの時のままで、でも——どこか遠い景色にも思えた。
カーテン越しの夕陽が、影を長く落とす中、
私はゆっくりベッドに腰を降ろした。
今までのことを、思い返す。
誰かが優しくしてくれるたび、
あの人のことばかりが浮かんでくる。
笑った顔。
怒った顔。
黙って隣にいてくれたこと。
泣きそうな時に、言葉もなく差し出された手。
思い返すほどに、胸の奥があたたかくなる。
でも、それと同じくらい、ひどく苦しくなる。
分かってる。
私は彼が好き。
でも……私は——
……私なんかが、こんなふうに誰かを想っていいんだろうか。
あの人に惹かれてしまった心を、否定するように
胸の奥で、もうひとつの声が囁く。