第10章 本当の居場所
アンリはゆっくりと顔を上げ、少し潤んだ目で、まっすぐを見つめた。
ア「……知らなかったとはいえ、黒田優人をこの施設に入れたのは、私なの」
の目が、かすかに揺れる。
ア「彼は優秀で、礼儀もあって、評判もよくて……“いい人”だと思ってた。……何も疑わなかった。だから、ちゃんの変化にも、気づけなかった……」
声が震える。
ア「それが、どんなに無責任だったか、今になってようやく分かったの。あなたのことを、“見ているつもり”になってただけだった。……守らなきゃいけなかったのに」
その言葉に、は静かに唇を噛みしめた。
ア「本当なら、あなたが傷つく前に、私が……止めなきゃいけなかった。でも私は、何ひとつ気づけなかった……!」
懺悔のような声が、静かな洗濯室に響く。
ア「……許してとは言わない。けれど……ちゃんと、あなたの前に立たせてください。あなたと、あなたを守ろうとしてくれたみんなに、今度こそ責任を持って向き合いたいの」
その真剣な言葉に、は目を伏せ、肩をかすかに震わせた。
しばらくして――
「……私……怒ってなんか、ないです。でも……」
言葉を探すようにしながら、小さく続けた。
「……誰かが、私のために“ごめん”って言ってくれるの、初めてで……ちょっと、びっくりしました……」
そして、そっと微笑みを浮かべる。
「……ありがとうございます、アンリさん」
――その言葉に、アンリは小さく目を潤ませ、胸に手を当てて深く息を吐いた。
隣にいた潔もまた、優しく微笑んだまま、その場の空気を壊さないように静かに立ち続けていた。