第10章 本当の居場所
トレーニングが終わり、洗濯室では乾燥を待つウェアの音だけが、微かに響いていた。
は空いた洗濯カゴを重ね直しながら、そっとため息をつく。
そこへ、静かに誰かが入ってきた。
潔「……あ。やっぱりここにいたんだ」
「……潔くん?」
潔は手にタオルを持ったまま、軽く眉を下げた。
潔「さっき、廊下で見かけたけど……顔がちょっと疲れてたから。なんとなく、ここかなって」
「……うん。片付け、ちょっと残ってて」
潔は隣に立つと、無言で洗濯カゴを持ち上げてくれた。
いつも通りの自然な気遣いに、はほんの少しだけ目を細める。
潔「……さんって、ずっとみんなのこと、見ててくれたんだなって思ってさ」
「……それは、私の仕事だから」
潔「でも、仕事ってだけじゃなかったでしょ」
そう言ってから、潔は少し黙った。
潔「……俺、怖かったんだ。何か変だって思っても、踏み込む勇気がなかった。……ずっと、気づいてたのに」
は静かに目を伏せる。
潔「だから、決めた。もう、見て見ぬふりはしないって。俺たちはもう、迷わない。……ちゃんとそばにいて、守るって決めたんだ」
その言葉に、はゆっくりと顔を上げた。
「……見て見ぬふりなんか、してなかったよ。潔くんたちは……ずっと見守ってくれてたんでしょ?だから……私は、逃げずにいられたの」
その言葉に、潔は言葉を詰まらせ、視線を落とした。
そして、少し照れたように笑って、小さく呟く。
潔「……ありがとう、さん。俺……ちゃんと、そばにいるから」
潔「……ありがとう、さん。俺……ちゃんと、そばにいるから」
は少しだけ微笑んだ。
その笑みには、張りつめていた心の糸が、ようやくほどけていくようなあたたかさがあった。
ふたりの間に穏やかな空気が流れる。
……と、その空気を破るように、洗濯室の扉がそっと開く音がした。
ア「……あの、ごめんなさい。邪魔……だったかな?」
少し戸惑ったような声に、ふたりが振り向くと、アンリが立っていた。