第10章 本当の居場所
夕方の静かな時間帯。
人一倍長いトレーニングを終えた凛はフィールドのベンチで壁にもたれかかるようにして、ぼーっとしていた。
その姿に気づいたが、そっと近づく。
「……凛くん」
凛「……あ?」
「少し、いい?」
凛は軽くため息をついてから、壁から背を離す。
凛「……別に、断る理由もねぇし」
は苦笑する。
二人、少しだけ離れたベンチに腰を下ろす。
「……ありがとう、あの時」
凛「何の話だよ」
「あの時……止めてくれて。来てくれて。……ちゃんと、見ててくれたんだよね」
凛「……見てただけだろ。他の奴らみたいに、何かしたわけでもない」
「……そんなことないよ。見ててくれたことが、どれだけ支えだったか……凛くんは知らないだけだよ。それに…1番最初に気づいてくれた人だよ。凛くんは」
その言葉に、凛はわずかに目を伏せる。
何かを言いかけたが、結局、口を閉じた。
は立ち上がり、ベンチの上に置いていたタオルを取り、ふわりと凛の頭にかける。
「……汗、ちゃんと拭かないと。風邪ひくよ」
凛「……は?」
「黙って。動かないで」
そう言って、はやや強引に、でも優しく凛の額からこめかみ、首筋までタオルで拭っていく。
凛「……別に自分でできるけど」
「うん。でも、今は私がしたいの。……“何もしてない”なんて、勝手に思わないで」
凛は驚いたようにを見た。
だけどすぐに視線を逸らし、少しだけ頬を赤らめる。
凛「……うるせぇよ」
は小さく笑って、タオルを膝に置いた。
「……ありがとね、凛くん。ちゃんと届いてたよ、優しさ」
凛「……」
凛は黙って座ったまま、ふいにそっぽを向いた。
その横顔は、確かにどこか照れているようにも、ほっとしたようにも見えた。
――誰にも見せないその表情を、だけが知っていた。