第10章 本当の居場所
トレーニングが終わるとシャワーも済ませた千切が、タオルを首にかけたまま軽やかな足取りで入ってきて、ソファの端にぽつんと座っていたに気づく。
千「よっ、。サボり中?」
「えっ、ちが……」
慌てるに、千切はいたずらっぽく笑いながら隣に腰を下ろした。
千「冗談だよ。たまにはサボってもいいくらい頑張ってるでしょ、は」
「……うん、ありがとう」
その声は小さかったけれど、どこか素直に響いた。
千「ほら、なんか元気ない顔してるし。なんか面白いことでも話す?」
「面白いことって……千切くんが?」
千「お、馬鹿にしたな今?けどまぁ、最近潔がさ、トレーニング中に派手にこけてさ――」
軽快に始まるエピソードに、がくすっと笑った。
「それ、ちょっと見たかったかも……」
千「俺、ちゃんと動画撮ってたから。後で見せてあげる」
「えぇ……盗撮……」
千「記録だっつの」
そう言って胸を張る千切に、はもう一度笑った。
千切はその笑顔を確認するように、そっと視線を落とす。
千「……その笑い方の方が、ずっとらしいよ」
「……え?」
千「最近、無理して笑ってた気がしてさ。俺、そういうの、気づくの遅いから……ごめんな」
はゆっくりと首を振った。
「千切くんが話しかけてくれるだけで、少し楽になる。……ありがとう」
千「うん、またなんかあったらすぐ言えよ?俺、けっこう動くタイプだから」
「……知ってる」
笑い合うふたりの間に、ようやく温かな空気が戻っていた。