第10章 本当の居場所
朝、共有スペースに柔らかな光が差し込む。
まだトレーニング前の静かな時間。
は資料を確認しながら、水筒を口に運んだが、中身はすっかり空になっていた。
(……いつもみたいに、慌てて準備して……やっぱり余裕ないなぁ)
立ち上がろうとしたそのとき。
凪「ほら。どうせ飲んでないと思った」
ゆるい声と一緒に、冷たいボトルが目の前に差し出された。
「……ありがと、凪くん」
凪「別に〜」
そう言いながらも、彼は隣の椅子に座り、テーブルに頬を乗せる。
凪「飲んでるとこ、見届けるくらいはするよ。めんどいけど、なんか……今はそういうの、放っとけない」
は思わず、くすっと笑った。
凪「……あ、今の笑い、いいじゃん。そっちのが似合う」
照れくささを押し隠すように、はボトルの水をゆっくりと飲み込む。
その一口が、不思議と胸の奥まで沁みていくようだった。
その後、トレーニングが始まり、選手たちがトレーニングルームへと向かう。
はその片隅で、道具を整理していた。
すると、ひとり戻ってきた國神が、何も言わずに歩いてくる。
そして、また何も言わずに――
の前にもう一本のボトルを差し出した。
國神「……さっきの、凪が勝手に持っていったやつ。俺が用意したんだ」
「……え、そうだったの?」
國「あいつ言わなかったのか?全く…」
國神は一歩、の隣に腰を下ろし、トレーニングルームの方を見ながらぽつりと。
國「手、ちゃんとあったかくなってたな。……安心した」
「……私も。今朝、初めて“冷えてない”って思えたかもしれない」
二人はそれ以上、言葉を交わさなかった。
でも、その沈黙は心地よくて、やさしかった。