第10章 本当の居場所
凛side
凛「……泣き顔、似合わねぇから」
そう呟いたあと、凛は振り返らずにその場をあとにした。
足音だけが、薄暗い廊下にコツコツと響く。
廊下を曲がって、人の気配のない自販機の前まで来ると、凛は壁にもたれて小さく息を吐いた。
凛「……くそ……」
右手で無造作に髪をかき上げる。
凛(なんだよあれ……ボロボロじゃねぇか……)
さっきまでのの顔が、頭に焼きついて離れない。
震える声。必死に縋るような目。嗚咽。
なのに、自分は、あんな場面でさえ正面から支えてやることができなかった。
凛「……俺が出る幕じゃねーって、思っただけだろ」
独り言みたいに呟いた。
凛(國神で正解だ。潔も、千切も、凪も……みんな、ちゃんと支えてた。なのに――)
自分は、「泣き顔似合わねぇ」なんてぶっきらぼうな言葉を吐いて逃げただけ。
凛(……弱えよ、俺)
自販機のスイッチを無意味に何度か押したあと、凛は目を閉じた。
凛(それでも……)
――もし、またあいつが泣くようなことがあったら。
――もし、誰もいないところで、ひとりで苦しんでいたら。
凛(その時は……俺が一番に気づいてやる)
そんなことを、誰にも聞かせられない声で、胸の中で誓う。
凛「……二度と、間に合わねぇなんてこと、してやるもんかよ」
夜の静けさのなかで、ただひとり。
凛は強く心に決めていた。
それが“らしくない”と思われたってかまわない。
――あいつを守れるなら、それでいい。
彼は背筋を伸ばし、黙ってその場を離れた。