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奪い合う光の中で【ブルーロック】

第9章 監獄の鍵を開く時


優人side

自分が何を失ったのか――
ようやく気づいたのは、すべてを壊してしまったあとだった。

幼い頃から、家には「家族」という温もりはなかった。
「母親」はいたけれど、その姿は季節ごとに変わった。
そしていつものように、違う女が母親面をしてリビングにいた。

あの頃の優人にとって、それはもう驚くことでもなんでもなかった。
新しくママと呼ばされる女。優人の顔や成績にばかり価値を見出す教師やクラスメイト。

――全部、薄っぺらだった。

本当の自分なんか、誰も興味なんてなかった。

そう思っていた。ずっと。

「……こんにちは」

玄関の向こうから、聞き慣れない小さな声がした。

振り向くと、父親の後ろからひょこりと顔を出した、見知らぬ女の子。
幼い。小柄で、ふわっとした髪が揺れていた。

目が合った瞬間、優人は息をのんだ。

優(……可愛い)

初めて抱いた感情だった。

ただの見た目だけじゃない。真っ直ぐすぎるその目に、思わず息を止めてしまったのだ。

「今日から、一緒に住むって……」

そう言いかけて、はふと口を噤んだ。

それから数日経った頃だろうか。
はいきなり聞いて来た。

「今まで寂しくなかったの?…私は寂しかったよ。だから、お兄ちゃんができてすごく嬉しいの!」

……あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。

自分のことなんて何一つ知らないのに。
学歴も成績も、親の機嫌も、何も知らないのに。

それでも――“お兄ちゃん”って、まっすぐにそう言って笑った。

何も疑わず、何も計算せず。
あの笑顔だけが、優人の胸に深く刺さった。

その瞬間だけは、本当に救われた気がした。

優(守りたい)

生まれて初めて、本気でそう思った。

ただ、傍にいたかった。
怖がらせたくなかった。
――ただ、笑ってほしかった。

でもその気持ちは、やがて歪んでいった。
彼女が優しくすればするほど、不安になった。
誰にでも笑うから。
誰にでも優しいから。

誰かにとられてしまうんじゃないか。
自分だけのものにならなきゃ意味がない。

いつしかその想いは、執着と支配に変わっていった。

だけど本当は――

優(……あのときの笑顔だけが、ずっと、欲しかったんだ)

優人の頬を、ひとすじの涙が伝った。
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