第9章 監獄の鍵を開く時
凛「……恋人だって言い張るわりに、ずいぶん一方的だな」
優「……黙れ」
優人は静かに吐き捨てるように言った。
優「……君は俺に“助けて”って言ったことがあるだろ。忘れたの?俺がいなきゃ何もできなかったくせに」
は息を呑み、足元を見つめた。
けれど――
思い出すのは、あの夜、凪に言われた言葉。
"優しくしてるのは、同情でも、気まぐれでもないんだよ。……俺たちが、“君が好きだから”だよ"
"逃げないで"
「……もう、助けなんて求めない。あなたがくれるのは、助けなんかじゃない……」
顔を上げた瞳は、涙で濡れていた。けれど、そこにあったのは怯えではなく――決意だった。
「私だって…私だって…嫌いになりたくなかった…ずっと大好きなままでいたかった…でも……もう、無理なの……お願い……終わりにして……」
その言葉に、優人の肩が震える。
優「……」
優人の顔には初めて、後悔の色が浮かんだ。
潔「もうやめろ、黒田さん。これ以上、さんに近づかないでください」
國「お前は……施設にいる資格なんてない」
優人はしばらく黙っていたが、やがて視線を逸らし、背を向けた。
優「……そうだよな。俺が間違ってたんだろうな」
その声は、やけに穏やかだった。
笑っているようで、泣いているような――そんな後ろ姿だった。
誰も、その背中に声をかけなかった。
は今までにないほど泣き、小さく震えていた。
だが今度は、それを強く握りしめる手が、確かに彼女自身の意志で動いていた。