第9章 監獄の鍵を開く時
その夜、はひとり、静まり返った廊下を歩いていた。
背中を押してくれた言葉が、まだ胸に残っている。
"助けてほしいなら、言えばいいんだよ。俺ら、ちゃんと聞くからさ"
それは、ずっと欲しかった言葉だった。
けれど今、それ以上に、自分で“けじめ”をつけたいと思っていた。
このまま逃げても、優人の影はきっと追いかけてくる。
どこまでも、何度でも、心の中に爪を立てて。
だから、終わらせる。
もう、戻らないと決めたから。
あまり人目につかない廊下で、ちょうどそこにいた優人に話しかける。
はその際少し息を飲んだ。
「……ねぇ」
優「ん?から話しかけてくるなんて珍しいね。どうしたの?」
「……話があるの」
ぴしゃりと言ったその声に、優人の目がわずかに細められる。
優「…そっ、か……じゃあ部屋に行こう」
優人はの手を引っ張った。
しかしは抵抗し、その場にとどまった。
優「一体どうしたの?」
優人は苛立ちを抑えるように少し笑って言った。
「…部屋には、行かない。ここで、話す」
キッパリとした声でそう告げると、優人の目がほんの一瞬だけ揺れた。
「……私、もう……あなたのそばにはいられない…」
優人の顔から、笑みが消える。
優「……どういう意味?」
「今まで、たくさんあなたに“守ってもらった”って思ってた。でも違った。私は……支配されてただけだった」
声が震える。でも、目は逸らさなかった。
「あなたがいないと不安で、誰かに頼るのが怖くて、全部あなたの言う通りにすれば平穏だって……ずっと思い込もうとしてた。でも、もう違う」
優「……」
「私、自分で決めたの。あなたとはもう、終わりです」
その瞬間だった。
ドンっと壁際まで押し戻される。
優人の手がの肩を掴み、ぐっと力がこもる。
優「……ねぇ。何があったの? 誰かに何か吹き込まれた? 凪くん?潔くん? それとも……千切くん?」
低く落ち着いた声が、じわじわと熱を帯びていく。
「やめて……話は終わったって――」